当事務所では、前回のブログでもお書きしたように医療機関側の代理人としての案件を多く取り扱っています。先日も、某医療機関から、入院患者の嚥下事故についてのご相談がございました。
嚥下事故についてはいくつか裁判例が出ていますが、そのうちの1つを今回ご紹介しておきます。

事例顛末
 福岡県が設置・運営していた病院に入院していた患者(事故当時80歳)が、平成16年1月12日、夕食に提供されたおにぎりを誤嚥して窒息するという事故に遭い、意識が回復しないまま、同年10月10日(事故から約9か月後)、呼吸不全により死亡されました。
 そこで、患者の全財産を相続した患者の二男が、患者の看護を担当していた看護師及び看護師の使用者である福岡県に対し、総額4050万円9500円の損害賠償を請求する裁判を起こしました。

今回の争点
① 本件事故当時、患者の嚥下状態が悪かったのに、咀しゃく、嚥下しにくいおにぎりを提供した過失があるか否か。
② 看護師は、歯科医師から食事摂取時には必ず義歯を装着するよう指示されていたのに、義歯を装着させなかった過失があるか否か。
③ 看護師は、患者が誤嚥しないように、また、誤嚥した場合に直ちに吐き出されるために見守りをすべきだったのに、これを怠った過失があるか否か。

判決編
判決(福岡地方裁判所平成19年6月26日判決)
 結論:看護師の過失が認定され、2882万8613円の賠償を求められました。
 理由:争点①について
 病院が、嚥下状態の悪い患者に嚥下しやすい工夫がされていないおにぎりを提供したことは適当ではなかったが、当時、患者の食欲不振解消が重要事項で患者の希望に添って提供されたものであること、歯肉を利用するなどしておにぎりを咀嚼すれば嚥下可能であり、注意して嚥下すれば誤嚥しないことを考慮すれば、おにぎりの提供自体がだだちに過失とはいえない。
争点②について
 患者は認知症状を呈しており、看護師が嫌がる患者本人に強制的に義歯を装着することは実際上不可能であるので、担当看護師が義歯を装着させなかったことに過失はない。
争点③について
   担当看護師は、仮に他の患者の世話などのために患者のもとを離れる場合でも、頻回に見まわって摂食状況を見守るべき注意義務があるのに、看護師は約30分間も病室を離れていたため誤嚥に気付くのがおくれた点に過失がある。


医療関係者として知っておくべきポイント
① 看護師は、「療養上の世話」及び「診察の補助」を業務として行う者(保健師助産師看護師法5条)として、適切な看護技術の提供などが求められます。そこで、本件にようにこの義務に違反した場合は、病院だけでなく担当看護師自自身も患者側から訴えられ、損害賠償責任を負うことになりますので、注意が必要です。
②  本件では、担当看護師は、5分おきの見守りを行っていたと主張しましたが、担当看護師の供述内容が何度も変わっていること、看護日誌の記載にも不自然な訂正が認められることから、見守り時間に関する担当看護師の供述・記載内容の信用性が否定されています。医療事故が起こった場合、事故当時の自分の行動の内容、順序や看護日誌の記載について、後日裁判で証言を求められることがありますので、事故発生当初から記憶をきちんと整理し、看護日誌も事実に沿って記載しておくことが必要です。
③  本件では、担当看護師は嚥下状態が悪い患者に対し、約30分間見守りをしていませんでしたが、仮に5分おきの見守りをしていたとしても足りない、と裁判所は判断しています。  患者の誤嚥のリスクの大きさに応じて、介助して食事を食べさせたり、患者自身が摂食する場合でも、一口ごとに食物を咀嚼して飲み込んだか否かを確認するなどの配慮が必要になる場合が多いでしょう。

 以上、大阪の弁護士北畑瑞穂のブログでした。
みずほ法律事務所